2006/6/15 掲載
このシリーズ「ドキュメント企業年金−日本版401k」では企業年金にまつわる課題を検討し、企業と加入者の方のためのより良い制度の運営に貢献できますよう様々な角度から情報を提供させて頂いております。
前回は「企業の果たす役割−加入者向け運用アドバイスの方法」として、グローバルハートで行っている「投資教育講座カリキュラム」をお伝え致しました。
第2回は引き続き「企業の果たす役割−加入者向け運用アドバイスの方法〔Part.2〕」として、グローバルハートで行っている「投資教育講座カリキュラムの内容No.1」をお伝え致します。
 
  確定拠出年金のための投資教育は、個人の行う資産運用とは老後の為の資金という性質上異なっています。
また、換金が60歳まで出来ないこと、非課税であることや運用期間が長期に渡る等を加入者に理解してもらう必要があります。
しっかりとした投資教育を行うことなく加入者が損失を被った場合は「個人の自己責任」では済まされず、「訴訟問題」に発展することにもなりかねません。
このシリーズでは様々な角度から投資教育を自社で行う場合の内容及び方法をグローバルハートのテキストを使って解説して参ります。第2回目は集合研修教育用カリキュラムから「投資教育についての説明」をお伝えします。
 
 
個人型の投資教育と企業型の投資教育の違い
 
確定拠出年金制度における加入者の運用の取り組み方には大きな相違があります。
基本的には、自分で拠出するか会社が拠出するかが大きな違いである為に、形式的な投資教育を行うと加入者のニーズに応えられず信頼を失うだけでなく結果的に損害賠償の対象となる可能性がある事に注意する必要があります。
個人型と企業型の投資教育の一般的な傾向をグローバルハートが投資教育実施の経験を踏まえて表にしました。
 
個人型の投資教育と企業型の投資教育の違い
 
個人型加入者  企業型加入者
投資に対する知識 ある程度の備え有り ほとんどこれから
運用に対する熱意 旺盛 個人差有り
投資教育の受講姿勢 比較的積極的(と思われる) 比較的受動的(と思われる)
情報提供に対する要望 多い(と思われる) 個人差有り
クレームになる確率 高い(と思われる) あまりない(と思われる)

※上記の表はグローバルハートの投資教育実施の経験を踏まえて作成。
どのケースにも当てはまるという訳ではありません。

 
投資教育の背景と目的
 
1.米国の投資教育
  • 小学生から経済や投資についての教育を実施。民間非営利団体(NPO)米国経済教育協議会(NCEE:National Council on Economic Education 1949年設立)によるプログラム「幼稚園から高校までの経済学習の内容に関する全米標準」(97年)が教育現場に採用されている。
 
2.投資教育の目的
  • 加入者教育の目的
    確定拠出年金法案では、従業員教育は「情報の提供」という表現で概ね3種類に区分されその義務が記載されています。
  1. 確定拠出年金にかかわる情報提供(企業により従業員に提供)
  2. 運用商品に係る情報提供(投資商品を提供する運営管理機関が責任を負う)
  3. 情報提供(年金運用に関する一般的な投資教育を、制度を実施する企業・国民年金基金連合会が、自ら又は運営管理機関等に委託して提供に努める)

※法律の詳細は以降の説明をご参照下さい。

 
投資教育の考え方と確定拠出年金規約の条項
 
加入者個人ごとに人生観、経験、価値観が異なるため、全ての人を満足させることは不可能です。また変動商品に対する考え方も一様ではなく、経済情勢も変化すれば当初の思惑通りに進まないもケースも発生します。それらを前提として考えることも必要です。

投資に対する知識や技術の習得はもちろん必要ではありますが、最も大切な事は変化に対応していくという気持ちを持ち続け他人に頼らないで自分の判断で運用していくことを加入者に認識してもらう事が投資教育の原点であると考えられます。
また、投資教育と確定拠出年金制度加入者の為の説明会とを混同しないことが重要です。

投資教育の実施には法律(確定拠出年金法、厚生年金保険法、確定給付企業年金法)や投資教育ガイドライン(確定拠出年金の投資教育に関する法令解釈通知)、国民年金基金連合会が定めた個人型年金規約等に従ってすすめる必要があります。下記に個人型年金規約の重要事項の抜粋を記載します。
 
個人型年金規約
  • (加入の申出に当たっての一般規定)第29条
  • 個人型年金に加入しようとする者は、制度の概要、資産運用についての一般的知識、運用商品についての利益及び損失の可能性等について十分理解した上で加入の申出をするものとする。
その他重要事項
  • 第6章(運 用)第88条〜第99条
  • 第88条(加入者等による運用の指図)、第89条(連合会の責務等)、第90条(運用の方法の選定及び提示)、第91条(運用の方法)、第92条(元本確保の運用方法)、第93条(運用の方法に係る情報の提供)、第94条(運用の指図)、第95条(運用の指図の方法)、第96条(運用の指図の制約等)、第97条(郵便預金又は簡易生命保険に係る運用の指図)、第98条(運用の方法の除外に係る同意)、第99条(加入者等への通知事項)    ・・・ 等々
 
確定拠出年金制度 実施事業主と運営管理機関の取り組み方
 
1.確定拠出年金制度理解不足による混乱
  • 年金制度、運用商品等専門性の高い業務を一箇所で完結できるまでの説明や手続きが膨大なため、本部・受付け窓口・加入者相互間の手続きが混乱しやすい。
  • 費用対効果からみると加入者側の理解不足をフォローする体制づくりが難しい。
  • 年金制度、金融商品等専門用語が複雑で難解なため混乱しやすい。
 
2.事業主責任と運営管理機関の業務と金融機関の業務
事業主と運営管理機関・金融機関の業務・責務等は確定拠出年金法により定められています。
また、運用についての運営管理機関の損害賠償責任については金融商品の販売等に関する法律との関連性にも注意が必要です。
(注:下記の法律には一部抜粋部分があります)
確定拠出年金法
  ・事業主の責務(事業主の責務)第二十二条
   事業主は、その実施する企業型年金の企業型年金加入者等に対し、これらの者が行う第二十五条 第一項の運用の指図に資するため、資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 
  ・運用の方法に係る情報の提供(運用の方法に係る情報の提供)第二十四条
   企業型運用関連運営管理機関等は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第一項の規定により提示した運用の方法について、これに関する利益の見込み及び損失の可能性その他の企業型年金加入者等が次条第一項の運用の指図を行うために必要な情報を、当該企業型年金加入者等に提供しなければならない。
 
  ・事業主と運営管理機関の行為準則と禁止行為
(事業主の行為準則)第四十三条
   事業主は、法令、法令に基づいてする厚生労働大臣の処分及び企業型年金規約を遵守し、企業型年金加入者等のため忠実にその業務を遂行しなければならない。(中略・・・)
   事業主は、次に掲げる行為をしてはならない。
   自己又は企業型年金加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって、第七条第一項の規定による運営管理業務の委託に係る契約又は資産管理契約を締結すること。
   前号に掲げるもののほか、企業型年金加入者等の保護に欠けるものとして厚生労働省令で定める行為
   事業主(運用関連業務を行う者である場合に限る。)は、次に掲げる行為をしてはならない。
   自己又は企業型年金加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって、特定の運用の方法を選定すること。
   前号に掲げるもののほか、企業型年金加入者等の保護に欠けるものとして厚生労働省令で定める行為
 
  (確定拠出年金運営管理機関の行為準則)第九十九条
   確定拠出年金運営管理機関は、法令、法令に基づいてする主務大臣の処分及び運営管理契約を遵守し、加入者等のため忠実にその業務を遂行しなければならない。(中略・・・)
  第百条
   確定拠出年金運営管理機関は、次に掲げる行為をしてはならない。
   運営管理契約を締結するに際し、その相手方に対して、加入者等の損失の全部又は一部を負担することを約すること。
   運営管理契約を締結するに際し、その相手方に対して、加入者等又は当該相手方に特別の利益を提供することを約すること。
   運用関連業務に関し生じた加入者等の損失の全部若しくは一部を補てんし、又は当該業務に関し生じた加入者等の利益に追加するため、当該加入者等又は第三者に対し、財産上の利益を提供し、又は第三者をして提供させること(自己の責めに帰すべき事故による損失の全部又は一部を補てんする場合を除く。)。
   運営管理契約の締結について勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、運営管理業務に関する事項であって、運営管理契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げること。
   自己又は加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって、特定の運用の方法を加入者等に対し提示すること。
   加入者等に対して、提示した運用の方法のうち特定のものについて指図を行うこと、又は指図を行わないことを勧めること(当該確定拠出年金運営管理機関が有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(昭和六十一年法律第七十四号)第二条第三項に規定する投資顧問業者その他確定拠出年金運営管理業以外の事業を営む者として行うことを明示して行う場合を除く。)。
   前各号に掲げるもののほか、加入者等の保護に欠け、若しくは確定拠出年金運営管理業の公正を害し、又は確定拠出年金運営管理業の信用を失墜させるおそれのあるものとして主務省令で定める行為
 
  確定拠出年金法施行令
  ・運用についての運営管理機関の損害賠償責任
(運用関連運営管理機関の損害賠償責任)第十三条
   企業型年金加入者等に係る運用関連業務を行う確定拠出年金運営管理機関は、法第二十三条第一項の規定により運用の方法を選定し、企業型年金加入者等に提示するときは、あらかじめ、事業主との間で次に掲げる内容の契約を締結しなければならない。
   確定拠出年金運営管理機関は、法第二十四条の規定による情報(金融商品の販売等に関する法律第三条第一項に規定する重要事項に相当するものに限る。次号において「重要情報」という。)の提供をしなかったときは、これによって生じた企業型年金加入者等又は企業型年金加入者等であった者の損害を賠償する責めに任ずるものとすること。
   企業型年金加入者等又は企業型年金加入者等であった者が前号の規定により損害の賠償を請求するときは、元本欠損額(企業型年金加入者等が法第二十五条第二項の規定により当該運用の方法に充てるものと決定した額から、当該運用の方法に係る契約について第一条第一号の規定の例により計算した額のうち当該企業型年金加入者等の行った運用の指図に係るものを控除した額をいう。)は、重要情報を提供しなかったことによって生じた損害の額と推定するものとすること。
 
投資教育の内容 1.ライフプランまで含めた投資教育
 
投資教育をすすめるに当たっては、はじめに加入者自身の「ライフプランニング」を行うことが重要です。
1.ライフプランニングの重要性
・情報開示・説明責任・適合性の原則・受託者責任
〔米国ERISA法(従業員退職所得保障法)モデル・以下の3つが基本となっている〕
アカウンタビリティ(説明義務)
 
  • 金融商品等の販売業者が、顧客に商品性・リスクの内容・セーフティネットの適用の有無等を説明する義務のこと。
  • 顧客に販売・勧誘する際に、金融商品のリスクを説明しなかったり、顧客が理解しなかった場合、金融商品が予想した成果をあげなかったときに紛争が生じやすい。
  • 顧客の自己責任を追及するためには、責任を負わせるだけの情報提供・教育が行われていなければならない。
  • 説明義務では、情報を提供しただけでは足りず、その顧客が理解出来る内容・水準で提供しなければならない。
適合性原則
 
  • 十分な利用者保護を図るには、説明義務に加えて、業者に対し、利用者の知識・経験・財産力・投資目的等に適合した取引を行わねばならないとするルール
  • 原則として、顧客の年齢・資産状況・投資経験等に基づいて金融商品を選択させることが必要
  • 定年間近な人にリスクの高い商品を勧めたり、為替の基本知識を理解できない人に外貨建て商品を勧める行為は適合性に反する。
受託者責任
 
  • 受託者責任とは、年金等で、受給権者を保護するために、年金資産の運用等に係る機関(受託機関)に対して課せられている責任で、注意義務と忠実義務が大きな柱
 
・自己責任原則・消費者主権
 確定拠出年金法、金融商品販売法、消費者契約法
 
2.リタイアメントプランニング
ライフプランニングの決定には加入者自身・個人のリタイア後の生活設計「リタイアメントプラン」が原点になります。
具体的な目標額の設定の前に老後の生活費、老後の期間の考え方、老後資金の目標額を具体化することが大切です。
 
投資教育の内容 2.段階的な投資教育の必要性
 
導入における投資教育では段階的に投資教育をすすめる必要があります。
1.投資教育の内容
 
・加入者教育の内容
 〔第一段階〕
 
  • 利用メリット(効果の具体的計算)
  • 制度のしくみ
  • ライフプランの作り方(退職前・退職後プラン)
 
 〔第二段階〕
 
  • 投資の基礎知識(分散投資・複利運用・インフレの影響)
  • アセットアロケーションの考え方
  • 投資関連情報提供
 
投資教育の内容 3.投資の基礎知識
 
投資教育に必要とされる基礎知識の概要例は下記になります。(一例)
  • わが国の年金制度の概要と確定拠出年金の位置づけ
  • 加入できる者と拠出限度額
  • 運用商品の提示方法と預替え機会の内容
  • 給付の種類、受給要件、受取方法
  • 離・転職した場合の移換の方法
  • 税制措置
  • 事業主、国基連、運営管理機関及び資産管理機関の役割
  • 事業主、国基連、運営管理機関及び資産管理機関の行為準則(責務及び禁止行為の内容)
 
  • 金融商品の性格と特徴
  • 期待できるリターンとリスク
  • 投資信託、株式、債券、保険等のしくみと価格変動要因
  • 資産運用の留意点
  • リスクの種類
  • 長期分散運用の考え方とその効果
  • ライフプランの考え方
  • 自己責任について
  • 早くから貯蓄を始めることの優位性
  • 退職後に必要な収入の計算方法
  • 退職までに貯蓄すべき金額の計算方法
  • 投資商品のパフォーマンス
  • ライフ・ステージによって異なる投資戦略
  • 金利差1%の重みと長期の複利効果
  • 年金の拠出と長期間のトレンド
  • 株価・土地価格の長期トレンド
  • 東京証券取引所1部上場全銘柄の市場収益率
  • 米国株式等の年間投資収益率
  • 長期投資の効果・収益率の振れ幅
  • 分散投資の仕組み
  • ドルコスト平均法による購入単価引き下げ効果
  • ポートフォリオ・アセットアロケーション
 

ポートフォリオ=複数の資産や銘柄で構成されたファンド全体

アセットアロケーション=収益率やリスク特性の異なる複数の運用資産を配分すること、
               分散投資の考え方

 
 

*今回掲載の資料はグローバルハートで行っている投資教育講座資料をもとに作成しております。資料につきましてのご質問は下記までお願い致します。


  株式会社グローバルハート  gheart@fine.ocn.ne.jp
 
 
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