2006/11/16 掲載
『知って得するシリーズ』では、日本版401kや企業年金等に関する知っておいた方が良い情報をお届けしております。
シリーズ第5回では日本の社会保障費における年金の割合についてお伝えします。
日本の社会保障給付費は年々増加の一途をたどっています。中でも年金給付の占める割合は高く、約半分を占めています。そこで今回は年金を制度の側面から検証し、年金給付の将来を考えていきたいと思います。特に後半に記載しました「社会保障給付費の推移グラフ」は必見です。
 
 
安倍政権が発足し、世の中が明るい未来に向かって進むかどうか、今後の政治・経済の運営にかかっていますが、私たち個々人は世の中の動向に左右されず現実を直視し将来を自分で設計する必要があります。
そこで今回は、日本の社会保障制度についての概要と年金給付の今後について考えてみたいと思います。
今後、団塊世代の大量退職で益々年金給付は膨らみます。まずは現実を直視し理解することが大切です。
わが国における社会保障制度の概要と現在までの社会保障費の推移を見ていきましょう。
 
 
社会保障制度の概要
 

【社会保障の定義】

「社会保障」という言葉は、1935年制定のアメリカの社会保障法により法律に使われたのが初めてです。その後1942年にILO(国際労働機関)の報告書により各国の社会保障制度が紹介される際にも使用され一般化しました。わが国では1946年日本国憲法第25条に使用され、その後一般化されました。

社会保障の定義については、1946年(昭和21年)公布の日本国憲法第25条、そして1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会勧告において述べられています。

  • 日本国憲法25条【生存権、国の生存権保障義務】
    1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
    2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
  • 社会保障制度審議会勧告
    社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他貧窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活貧窮に陥ったものに対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。

【社会保障の主な目的】

  • 生活保障・生活の安定 ・個人の自立支援 ・家庭機能の支援

【社会保障の主な機能】

  • 社会的安全装置(社会的セーフティネット) ・所得再分配 ・リスク分散 ・社会の安定及び経済の安定・成長

【社会保障関係の所轄官庁】

所轄官庁は厚生労働省。
年金については厚生労働省外局の社会保険庁が国民年金、厚生年金保険、政府管掌健康保険、船員保険等の運営実施と実務を行っています。
社会保険庁は2008年に解体され、新たに設立される「ねんきん事業機構」が運営実施と実務を引き継ぎます。

【社会保障関係の審議会】

審議は、社会保障審議会が行っています。
<社会保障審議会>

社会保障審議会は、平成13年の省庁再編による厚生労働省発足に伴い、社会保障関連の8審議会を統合再編しました。
審議会には政令で決められた6つの分科会と、必要に応じ設置される部会が設置され社会保障制度・人口問題の基本的な事項について審議しています。

●社会保障審議会の6分科会

  • 医療分科会・・・特定機能病院の承認等
  • 福祉文化分科会・・・優良図書の推薦等
  • 医療保険保険料分科会・・・標準報酬最高等級・保険料率変更
  • 介護給付費分科会・・・介護給付費支給基準等
  • 年金資金運用分科会・・・年金資金運用指針、運用実績報告
  • 統計分科会・・・統計の総合的企画等

<社会保障についての調査研究>

  • 厚生労働省により設置された国立の政策研究機関 「国立社会保障・人口問題研究所」が社会保障及び人口問題に関する調査及び研究を行っています。
 
わが国の社会保障制度の歩み
 

【日本の社会保障制度の歩み】

  • 戦後から高度成長期頃まで・・・貧窮からの救済と貧困の防止、給付内容の充実(制度拡充期)
  • オイルショック後から現在まで・・・給付と負担の公平・長期的に安定的な制度の確立(制度再建期)

<戦後からオイルショック前まで>

戦後、福祉国家への道を模索し始めた日本では、生活貧窮者のための緊急支援が社会保障費の約半分を占めていました。
やがて高度成長期へと移行し、国民の生活水準の向上等にあわせ、社会保障も全国民をカバーする医療、年金保険制度が導入され、1961年に 「国民皆保険・皆年金」が確立されました。この「国民皆保険・皆年金」が現在に至る社会保障制度の根幹を成すこととなり、生活保護中心から被保険者が自ら保険料を支払うことにより病気や老齢等のリスクに備える社会保険中心型へと移っていきました。
その後、社会保障の各制度の給付改善や制度の拡充等が行われ、1973年には「福祉元年」と呼ばれる老人医療費の自己負担無料化や年金水準の大幅引き上げ等が行われました。

<オイルショック後から1980年代>

しかし、1973年のオイルショックを契機に国の財政事情が悪化、「財政再建」が叫ばれることとなります。それまでの高度経済成長時代の拡大する社会保障制度を経済社会変化や厳しい財政事情に対応し、安定成長型に見直しをする必要がでてきました。さらには将来の高齢社会に適合するよう、社会保障費用の適正化、給付と負担の公平化、安定的・効率的な制度基盤の確立等の観点から、社会保障制度の全面的な見直しが行われるようになりました。

<1990年代以降から現在まで>

そして、90年代以降、少子高齢化の問題が浮き彫りとなり、合計特殊出生率低下の進行が進み「人口減少社会」の到来を予測される時代となりました。社会保障も時代に合わせた新たな展開として「高齢者介護問題」に対する取り組みとしての「介護保険制度」が創設されました。また、少子高齢化の進展等による福祉サービスに対する需要の増大・多様化に対応し、福祉制度の見直しやゴールドプラン等に基づく計画的な基盤整備が進められています。介護・福祉分野のサービスの提供としては、措置制度を見直し、利用者の選択を尊重した利用方式への制度の見直し等の動きが見られ社会保障構造改革や社会福祉基礎構造改革への取り組みがされています。

 
社会保障給付費の定義と分類
 

【社会保障給付費の定義】

社会保障給付費の範囲はILO(国際労働機関)が国際比較上定めた社会保障の基準に基づいて決定されています。
ILOでは社会保障の基準として次の3基準を満たしている制度を社会保障制度と定義しています。

  1. 制度の目的が以下のリスクやニーズのいずれかに対する給付を提供するものであること。
    (1)高齢 (2)遺族 (3)障害 (4)労働災 (5)保健医療 (6)家族 (7)失業 (8)住宅 (9)生活保護その他
  2. 制度が法律によって定められ、それによって特定の権利が付与され、あるいは公的、準公的、若しくは独立の機関によって責任が課せられるものであること。
  3. 制度が法律によって定められた公的、準公的、若しくは独立の機関によって管理されていること。あるいは法的に定められた責務の実行を委任された民間の機関であること。

社会保障給付費は上記のILO基準に従い、国内の社会保障各制度の給付費について、毎年度の決算等を元に推計したものです。
ILO基準における機能別社会保障給付費の項目は下記の表の通りです。

 
社会保障給付費 機能別分類
機能別社会保障給付費の項目説明
社会保障
給付費
ILO定義 日本の例
高齢 退職によって労働市場から引退した人に提供される全ての給付が対象 厚生年金:老齢年金
国民年金:老齢年金、老齢福祉年金
厚生年金基金、農業者年金基金等:老齢年金等
各種共済組合:退職共済年金
各種恩給
介護保険の給付及び社会福祉の老人福祉サービス等
(注)高齢者の医療費は「保健医療」に含む
(注)生活保護の医療扶助は「生活保護その他」に含む
遺族 保護対象者の死亡により生じる給付が対象 厚生年金:遺族年金
国民年金:遺族年金及び一時金
各種共済組合:遺族年金及び一時金
戦争犠牲者:遺族等年金等
(注)遺族に係る年金給付のうち業務災害制度から支給される給付は「労働災害」に含む
障害 部分的又は完全に就労不能な障害により保護対象者に支払われる給付が対象 厚生年金:障害年金及び一時金
国民年金:障害年金
各種共済組合:障害年金及び一時金
公衆衛生:予防接種事故救済給付
社会福祉:特別児童扶養手当等給付金、
       身体障害者保護費等
労働災害 保護対象者の業務上の災害、病気、障害、死亡に対する労働災害補償制度から支払われる給付が対象 労働者災害補償保険、船員保険、公務員の災害補償保険
保健医療 病気、障害、出産による保護対象者の健康状態を維持、回復、改善する目的で提供される給付が対象(傷病で休職中の所得保障を含む) 健康保険制度(組合管掌健康保険、政府管掌健康保険、
国民健康保険)の療養給付・出産給付、傷病手当金等
各種共済組合:短期(医療)給付・出産給付、休業給付
公衆衛生:予防接種事故救済給付・現金給付等
(注)労働災害補償制度から支給される給付は「労働災害」に含む
(注)生活保護の医療扶助は「生活保護その他」に含む
家族 子どもその他の被扶養者がいる家族(世帯)を支援するために提供される給付が対象 雇用保険等の育児休業給付、介護休業給付
児童手当
公衆衛生:家族介護手当、介護加算
社会福祉:児童扶養手当、児童福祉サービス
       (児童保護費、児童健全育成事業等)
失業 失業した保護対象者に提供される給付が対象 雇用保険、船員保険:求職者給付、雇用継続給付、雇用安定事業
(注)雇用継続給付の育児休業給付及び介護休業給付は「家族」に含む
(注)雇用安定事業は、失業者以外に在職者や雇用主対象の給付も含む
住宅 住居費の援助目的で提供される給付(資力調査を行うもの) 生活保護制度:住宅扶助費
生活保護その他 定められた最低所得水準や最低限の生活必需品を得るために、援助を必要とする特定の個人又は集団に対して提供される現金及び現物給付が対象 生活保護制度:諸扶助費
各種共済組合:災害見舞金等
(注)ただし、生活保護の住宅扶助は「住宅」に含む
(注)社会保障給付費の範囲は、ILO(国際労働機関)により国際比較上定めた社会保障の基準に基づいて決定されている。
出展:国立社会保障・人口問題研究所「平成15年度 社会保障給付費」
 
収入、制度、部門、機能、対象者からみた社会保障給付費(2003(平成15)年度)

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【社会保障給付費の分類】

<社会保障給付費・部門別分類>
社会保障給付は部門別に分類すると「医療」「年金」「福祉その他」に分類されます。
部門に含まれる項目は下記のようになります。

 
<部門別・社会保障給付費>
部門別分類名 含まれる項目
医療 ・医療保険、老人保健の医療給付
・生活保護の医療扶助
・労災保険の医療給付、
・結核、精神その他の公費負担医療
・保健所等が行う公衆衛生サービス
年金 ・厚生年金、国民年金等の公的年金
・恩給、労災保険の年金給付
福祉その他 ・社会福祉サービス
・介護対策にかかる費用
 (介護保険給付・生活保護の介護扶助、
  原爆被害者介護保険法一部負担金、
  及び介護休業給付を含む)
・生活保護の医療扶助以外の各種扶助
・児童手当等の各種手当
・医療保険の傷病手当金
・労災保険の休業補償給付
・雇用保険の失業給付
 
部門別分類した社会保障給付費の70年から現在までの推移をグラフにしてみました。
一人当たり社会保障給付は2000年まで右肩上がりで増加をしています。また、社会保障給付の総額における年金の占める割合は大きなものとなっています。


(注)2006年度は予算ベース(厚生労働省-「社会保障の給付と負担の見通し−平成18年5月推計−について」
出展資料:国立社会保障・人口問題研究所「社会保障統計年報」より
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厚生労働省では、この間の社会保障制度改革(年金制度改革・介護保険制度改革・医療制度改革等)を踏まえた上で「社会保障の給付と負担の見通し」を社会保障給付費全体で2011年度は105兆円、2015年度は116兆円としています。うち年金給付は2011年度で54兆円、2015年度では59兆円となる見通しです(額は各年度の名目額)。
団塊世代の大量退職も終了し、制度改革後においても社会保障給付費における年金の給付割合は大きなものとなると予想されています。
 
 
少子高齢化社会において、社会保障の公平化、更なるサービスの充実を図るには社会保障財源の増加は不可欠となり、負担も伴うことになると予想されます。
各国の制度においても北欧諸国に代表される「高負担・高福祉」型や「低福祉・低負担」のアメリカ型、その中間の「中福祉・中負担」とに分かれています。負担や保障の形や働き方は異なっており、文化や経済体制も異なることから一概には言えませんが、日本の将来を考えるうえで、各国の制度を知ることは良い検討材料となるでしょう。
日本においてもライフスタイルや家族構成・勤務形態などは著しく変化しており、時代にあった社会保障とするための抜本的な改革が求められています。今後の制度改革の行方を注視する上でも基本的な制度の概要等を知っておくことは大切なことだといえるでしょう。
 
 
 

*今回掲載の資料は以下の資料等を基に抜粋・編集・制作しております。

  • 国立社会保障・人口問題研究所:平成15年度 社会保障給付費
  • 厚生労働省:社会保障の給付と負担の見通し−平成18年5月推計−について
         :平成11年度版厚生白書
  • 総務省統計局・制作総括官・統計研修所 統計データ:日本の長期統計系列 第23章 社会保障

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 株式会社グローバルハート  gheart@fine.ocn.ne.jp

 
 
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